2017.08.18 配信
第608号 『 リニア中央新幹線の夢は、夢のままがいい 』

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田中優の“持続する志”

優さんメルマガ 第608号
2017.8.18発行
http://www.mag2.com/m/0000251633.html

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田中優より

「自分のおこずかいで買うからいいでしょ!」

そう突っ張ったJR東海にみんなの財政投融資から3兆円。

葛西会長のペットプロジェクトと呼ばれた葛西会長は、
「朝鮮戦争が再度起こって景気が良くなればいい」とする論者。
アベと共に消えてほしいです。

今回公開します有料・活動支援版メルマガバックナンバーは、
このJR東海のリニア新幹線についてです。


参考「“超黒字”JR東海に公的資金3兆円投入!?
リニア建設資金不足で、やっぱりツケは国民に…(樫田秀樹さん)」
http://www.excite.co.jp/News/column_g/20170701/Shueishapn_20170701_87127.html



□◆ 田中 優 より ◇■□■□


『 リニア中央新幹線の夢は、夢のままがいい 』



■リニア中央新幹線の夢


 リニアの夢は何だろうか。

 とても速くて名古屋まで40分、大阪まででも67分、すると東京〜大阪間が都内
のように行き来できて、同一エリアのように活用できる。すると当然効率的にな
るので地域経済の活性化が図れる。東海道新幹線の混雑が緩和でき、中央ルート
なら次の東海地震でも被害を受けずに東京〜大阪間のルートを確保できる。

 いやいやそれよりも世界初の技術で世界をリードする鉄道になれる点だ、と
いった感じだろうか。



■速度の制限因子は何か


 しかし調べてみると、時速500キロと言われるリニア新幹線も、平均速度では
429キロなのだ。この速度は従来型の新幹線でも夢ではない。現実に今でも姫路
から先の山陽新幹線では300キロの速度で走行しているし、フランスのTGVで
は320キロで走行しているし、最高速度で言えば429キロを超える従来型の列車は
たくさんある。


 では何が違うのか。直線性なのだ。直線であればスピードが出せるが、山岳
地帯が多く小さな日本では、その条件が整わないだけなのだ。


 そして今回の中央新幹線の線路はひたすら真っ直ぐなのだ。その理由はリニ
アの欠点のせいでもある。リニアは小回りが利かず、最小曲線半径が8000メー
トルもあるのだ。250キロで走行する東海道新幹線の最小曲線半径が2500メート
ル、300キロを出している姫路から先は最小曲線半径4000メートルであるからだ。

 つまりこの8000メートルの最小曲線半径なら、リニアでなくても429キロの速
度で走行できる可能性が高い。違いができるはリニアは勾配に強く、従来型で
はそこまでの能力はないということだろうか。


 ここでもうひとつの選択肢が登場する。リニアではなく、従来型の新幹線を
走らせるという方向だ。



■東海道新幹線は満杯か

 以前はJR東海も、「東海道新幹線が輸送力の限界に近付いている」としてい
た。しかし2010年5月の政府審議会以降、「輸送力の限界」説は取り下げてしま
っている。理由は簡単だ。

 図1にあるように、座席利用率は2003年の66.2%を上限に、2009年の55.6%ま
で下がり続けてしまっているからだ。今後は人口も減る。そんな中で「輸送力の
限界」説は維持できなくなっているのだ。

図1 (メルマガにて公開中)
 

 もしそれが事実だとしても、JR東日本が導入している二階建て新幹線を入れ
れば足りてしまう。東海道新幹線のN700系が1323席であるのに対し、二階建
て新幹線では同じ16両編成でも1634席と23%増加する。



■東海地震と老朽化した設備の更新のため


 東海道新幹線は鉄道が造られてから、実に50年経っている。そのためJR東海
は、老朽化した設備の更新のために二重系化が必要としている。また同時に来た
るべき東海地震対策としても必要だとしている。

 もし設備の更新だけなら、今のままでも一部運休すればできるだろう。座席利
用率は55.6%(2009年)なのだから、不可能とは言えない。JR東海の言葉で言
えば、「長期間にわたる部分運休や徐行運転が想定される」だけだ。

 しかしもう一方の東海地震対策となると、不要とも言えない。東海地震が被害
を及ぼすであろう地域と中央新幹線のルートを比較してみると図2のようになる。
確かに東海地震では沿岸部を走る東海道新幹線には不安がある。その範囲を避け
て通る中央新幹線のルートには確かに二重系化のメリットがある。ただしそのこ
とは、リニアでなければならない理由にはならない。

図2 (メルマガにて公開中)
 


■本当に速いのか


 JR東海は9兆円かかると見積もられる中央新幹線を、二段階で実現しようと
している。名古屋までの一部開通と、その後の大阪までの延伸だ。一方、建設に
期待する「リニア新幹線建設促進期成同盟会」は一気に大阪までの全面開通に期
待している。しかし期成同盟は責任を負う団体ではなく、あくまでJR東海の費
用負担で進められる話だ。しかもJR東海側では国鉄から買い取った新幹線負担
5兆円を、3兆円まで返済した実績に基づいて考えているのだから、一気に9兆
円負担というのは無理な相談だ。


 しかしそのことが速さのメリットを減殺する。

 名古屋まででは航空機からの乗り換えは期待できないからだ。JR東海は名古
屋まで開通の時点で、

1.航空からの転移、
2.料金アップ(名古屋まで+700円、大阪まで+1000円)、
3.高速道路からの転移と新規需要

の三つ図3でカバーして図4のように「経営体力を回復し、速やかに大阪開業に
取り組む」としているが、一体どこに名古屋まで行くのに飛行機に乗って行く人
がいるというのか。料金の高さから新幹線が敬遠されているというのに、高速道
路からの転移がなぜ起こるのだろう。

図3(メルマガにて公開中)
 
図4(メルマガにて公開中)
 


 そして極めつけが品川駅、名古屋駅での乗換えだ。

 「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(通称:大深度法)が2001年
に制定され、地価高騰を回避するために深度40メートル以深を「公共の用に利用
できること」とした法がある。リニアでは、これを使って用地買収を避ける方向
で考えられている。

 しかしその結果、現在でも東京駅での新幹線への「標準乗換え時間」が10分と
されているのに、地下40メートル以下では最低でも15分は見込まなければならな
いはずだ。

 すると品川で15分、名古屋で15分、合計で30分ロスすることになる。これで大
阪まで行った場合、図5のとおり従来の東海道新幹線が153分であるのに対し、
128分となってわずか25分しか違わない。しかも荷物を持っていたら大変な作業だ。

図5 (メルマガにて公開中)
 

 これで航空から転移するとは考えられない。すると「経営体力を回復」するこ
とは困難になり、大阪までの延伸は困難となってしまう。するとメリットはほと
んど感じられないものになる。



■デフレ是正のためには公共事業が必要


 そもそもぼくは公共事業が嫌いだ。しかし正しく言うと、これまで進められて
きたダムだの原発だのリゾートだのという、公共事業が嫌いなのだ。しかしもし
洋上風車の建設だの、発送電分離のための海底送電線設置と言われたら、ぼくは
賛成する。

 要は「公共事業」が悪なのではなくて、公共事業の選び方が「悪」なのだ。
そして15年続くデフレの日本では、緊縮財政や増税の前にデフレ撲滅をしなけれ
ばならない。そのためには「良い公共事業」が選択される必要があるのだ。

 この間のデフレで、今日買うより明日の方が価格が下がるから、誰もがモノを
買うのを待つようになった。そのためモノは売れず作れず、産業は衰退して人々
は失業するようになった。投資できないために余ったカネで、アメリカの戦費を
支えてきた。


 しかし日本が経済的に復活したいなら、石油・天然ガス・ウラン・石炭の輸入
に費やしている資金を国内に回すのがいい。そのための投資は抜群に雇用を回復
させ景気を改善する。2008年には24.5兆円も海外に流出させてしまった燃料費を
国内に回せれば、一都道府県あたり毎年5210億円も回せるのだ。
 だから公共事業が悪いのではなくて、その使い道が悪いのだ。



■リニアは公共事業として適切か


 新幹線がどれほど世界的に信頼性が高いかは、今さらぼくが言う必要もないだ
ろう。50年間も事故らしい事故を起こさず、しかも毎年毎年性能を高めてきた。

 図6の燃費を見てほしい。最初の新幹線と比べると、実に半分の電気で走行で
きている(時速220キロのとき)。その電気代で言うと、今や一両に一人乗客が
いるだけで燃料費が賄えてしまうほどなのだ。

図6 (メルマガにて公開中)
 

 それではリニアはどうだろう。図7の比較を見てほしい。「1座席あたり」と
「1人あたり」の違いがあるが、少なくとも航空機の「1/12」だったのが「1/3」
になっているので四倍効率は劣化している。さらに直接の数値では、
4.2kgco2/座席⇒29.3kgco2/人になっているので、7倍劣化している。
 これで他社が導入したいと思うだろうか。

図7 (メルマガにて公開中)
 

 しかも路線に乗り入れることができないのだから、従来の車両も路線も使え
ない。専用の最小曲線半径8000メートルという直線ルートでなければ走れない
のだ。

 この技術が使えるとしたら、日本のような狭い国ではなく大陸的な広い国
で、しかも従来は鉄道がなくて乗り入れを考えずに済む国しかないだろう。
しかしドイツは断念し、中国も今や消極的だ。つまり地球上にほとんど売り
込める先のない技術なのだ。もし売りたいのなら、最小曲線半径をもっと小
さくするなどの改善が行われてからでなければならない。


 しかも車両や周囲の出す電磁波は人間の耐えうるレベルを超えている。
ヨーロッパでは人体に対する許容基準から考えて、永遠に導入できるレベル
にならないだろう。中津川市での説明会でJR東海が公表したデータによる
と、「時速500キロのリニアが通過すると、その横4メートルで1900ミリガウ
スの電磁波が発生する」そうだ。
 
 停車時における車内の値は1万3000ミリガウスとされている。さらに国立環
境研究所は2005年、リニア実験線の車内床上での電磁波は、6000から4万ミリ
ガウスになると報告した。


 これはWHO(世界保健機構)が発表している「日常的に浴びている子ど
もが、小児白血病が倍になってしまう3〜4ミリガウス」(図8)という基
準の1万倍だ。

図8 (メルマガにて公開中)
 

 しかも全線の8割以上がトンネルで、火災が起きたとしても次の駅まで停
まれない。停まったとしても、最も深いところでは地表まで1400メートルも
ある。浅いところでも大深度地下だから40メートルある。これでは屈強な登
山家でなければ安心して乗ることはできない。


 リニアはひいき目に言っても未熟な技術だし、もっとはっきり言ってしま
えば発展性の見込めない技術なのだ。これは公共事業としても適切ではない。



■JR東海は勝手に事業を進めていいのか

 公共料金に対しては政府が関与できる。JR東海が単独の企業だけでリニ
アを進められるのは、東海道新幹線がドル箱だからだ。新幹線の電気代は、
新幹線運行費用の4%程度だから、25倍の費用がかかることになる。

 つまり今の余裕ある経営の仕方でも、一両に25人乗っていればトントンに
なる。16両編成で400人乗れば元が取れる。ところが16両1323席に対して
55.6%乗っているのだから、740人になる。つまり1.85倍の収益を得ている
ことになる。

 この余剰収益でリニアを作る以外に、料金を46%下げる選択肢もあるとい
うことだ。約半値にすることも可能なのだ。


 もし未来に対して先行投資するのならば、このような不適切な投資である
べきではない。もし東海地震に備えて二重系化するのなら、実績があって他
路線とも乗り入れ可能な従来型新幹線にすべきではないか。


 もしそれを考えないのなら、二酸化炭素を排出しない発電方法によって走
らせるほうが、ずっとエコになる。

 電気料金は原発に頼る頼らないに関わりなく値上がりが見込まれている。
しかもJR東海の支払っている電気料金は、私たち一般家庭の負担によって
著しく安く購入されている。しかしなぜかJR東海葛西社長はそうした社会
的責任を負うのではなく、東電や中電に原発を動かせと発言しているのだ。

 公共料金で人々に負担させながら事業をする企業にしては、電力会社並に
横暴ではないか。きちんと社会的責任を果たさせるべきだ。



■人々が受忍する計画を


 トンネルを掘られる地域では、水みちが切られるなどして影響を受ける。
しかも直線にしなければならないために、岐阜県の東濃地域にあるウラン鉱
山に当たってしまっても避けられないし、図9の阿蘇周辺の高森線で起きた
ようなトンネルからの出水にあっても止めることができない。高森ではあま
りの湧水の多さに、ついに鉄道敷設を断念して「湧水トンネル」とせざるを
得なかった。

図9 (メルマガにて公開中) 


 しかしそれでも地図全体で考えたら線の被害だから、図10のような環境破
壊があるにせよ、もし必要性が高いならば受忍せざるを得ないだろう。

図10 (メルマガにて公開中)
 

 しかしリニアでは、受忍せざるを得ないものとはとても言えない。むしろ
東名・名神高速を走るトラック輸送の代替に使えるものにした方が、はるか
に社会的意義も高いものになる。社会的意義が高くなければ人々は受忍する
気にならないだろうし、それをさせることは横暴にすぎない。

 JR東海を「ブラック企業」にしないためには、社会的意義あるプランに
するべきだ。

 二酸化炭素を出さない発電方法に資金を投資するなり、環境負荷を多大に
かけるトラック輸送をトレイン化して減らさせるなり、できることは他にあ
るはずだ。

 少なくともドル箱路線で利益を貪った資金でしていい事業ではない。
甘えた子どもの玩具ねだりのようではないか。


 リニア中央新幹線の夢は、夢のままがいい。


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